大阪・万博記念公園駅から会場へと向かう道中にかの太陽の塔を望みながら、4年ぶりの『ヤッサ!』に胸躍らせる人々が足早に向かった先には、至るところに"30"という数字があしらわれた巨大なステージセット。その前に広がる広大な万博記念公園もみじ川芝生広場には、入場時に配布されたレジャーシートに腰掛け、開演を待つ期待感いっぱいのオーディエンス。歴代のMVでウルフルズの偉大な足跡をプレイバックするヒストリームービーがスクリーンに映し出され、『世界の国からこんにちは』のSEが流れるや、バックヤードでダンサーやスタッフたちとハイタッチを交わしながら舞台へと向かうメンバーの姿へと映像が切り替わる。ミュージシャン一同、円陣を組んで気合一発! いよいよ目の前へと現れたウルフルズ御一行を温かい手拍子が迎え入れる、何ともドラマチックなオープニングだ。
「イエーイ! 『ヤッサ!』ー! 大阪ー! 今日はみんなこんなに集まってくれて、ホンマにありがとうな~。もう1回言うけど、ホンマにありがとうな~(笑)。今日はめちゃめちゃ楽しんでいってよ。みんなマスクしてて声は出されへんけど、心の中で歌ってくれ~! 心の声で叫んでくれ~! みんなええかー? ええかー? ええのんかー?(笑)」と、トータス松本(vo&g,harp)がいかにも言いそうなことを、そっくりそのまま再現するジョンB(b&cho)に、冒頭からドッと笑いが巻き起こる。
気を取り直して、イントロのギターリフとピタリと合わせ「カモン、トータス!」と呼び込むジョンBの掛け声を合図に、せり出しから浮上したトータス松本の「大阪―!」コールで、場は一気に盛り上がる! そう、1曲目からいきなりの『ガッツだぜ!! V』。総立ちのもみじ川芝生広場に数万の手が伸びる中、真心ブラザーズの桜井秀俊(g)と菅原龍平(g)の魂のギターソロの掛け合いでも魅せ、そのまま『サンキュー・フォー・ザ・ミュージック V』へ。武嶋聡(sax)、村上基(tp)、滝本尚史(tb)からなるヤッサホーンズと伊東ミキオ(key)のピアノも映える一曲に、あっという間に最高のライブ空間が出来上がる。トータス松本が「マスクの中で一緒にカモン! 小っちゃい声で(笑)」と促した『すっとばす V』といい、"30周年で30曲"と宣言した代表曲の数々を序盤から惜しみなく披露していく。
「もうね、今日はここに立ててるだけでうれしいわ。久しぶりのウルフルズという人も、ライブ自体が久しぶりの人も、今日はとにかく最後まで...長いよ、30曲やるから(笑)。目いっぱい楽しんで帰ってください!」(トータス松本)
『あそぼう V』で40人のヤッサダンサーズと観客が総出で手を振るド迫力の景色を生み出した後は、学生中心のダンサーとの結構な年齢差に遠い目をしたトータス松本が(笑)、「最初に『ヤッサ!』をやった頃は、俺は34歳で。(客席を眺めて)長いことウルフルズを見てくれてる人がたくさんいるわ。古いTシャツを着てる人とかも来てくれて...30周年のお祝いしに来てくれたのをひしひしと感じる。今日は一曲一曲かみ締めるように、いろんなことを思い出しながら演奏したいと思う。ちょっといつもとは違う、独特なライブになるような気がします」と感慨深げな様相。
アコースティックギターをかき鳴らし届けたグルーヴィーな『かわいいひと V』の後も、「もうね、いつも拍手をたくさんもらってる。メンバーそろってここにおる。それだけでホンマにありがたいわ」(トータス松本)と、30年という時を重ね改めて今、ウルフルズとして生きていく喜びに満ちた表情のメンバー。その後も『大丈夫 V』しかり、「本当に数えるぐらいしかステージでやってないと思うけど、『ウル盤』を作るときにスタッフからリクエストがあって」という『泣きたくないのに V』しかり、珠玉かつ哀愁のミドルバラードが続いていく。
「みんな、ありがとうな~(笑)」(ジョンB)
「今日のオープニング、ナイスやったね(笑)。やっぱりちょっとズルいよねジョンBは。リハではあそこまでやらへんのよ。本番まで取っておくという(笑)。あれはもう舞台監督の無茶ぶりでね」(トータス松本)
「(今はバンド活動休止中でウルフル)ケイスケ(g&cho)さんがおらへんから(笑)」(ジョンB)
「ウルフルズを長年にわたって見てくれてる人は、あの感じを受け入れられると思う。けど、初めて見た人はどう思うんやろ? 何か性に合ってない人がやらされてる! みたいな(笑)」(トータス松本)
「まぁ僕が言いたいことは一言です。ありがとうな~(笑)」(ジョンB)
「ついでにサンコン(Jr.)(ds&cho)を紹介してまおか」(トータス松本)
「みんなありがとうね! 松本くんが言ってるように、ここに立ってるだけで感無量で。さっきのジョンBさんの話じゃないけど、キャラじゃないにしろ一生懸命やってると何か伝わると思うんよね。だからきっとこれから、ジョンBさんもすごくなると思います(笑)。そんなウルフルズを今後ともよろしく!」(サンコンJr.)
「サンコン、ありがとうな~(笑)」(ジョンB)
そんな他愛のないやりとりからも、アニバーサリーライブながらリラックスしたムードが伝わってくる。バンドの長い道のりを思い浮かべ、トータス松本はこう続ける。
「一生懸命やってきたんですよ、ウルフルズは。それだけは胸張って言えるわ。まぁデビューもよくできたと思うし、よくみんなに聴いてもらえた。これまでいろいろあったけど、今こんなところでやれてるのは本当に...ありがとうな~(笑)。俺が言ったら変になるやろ(笑)。今から演奏する曲は『ヤッサ!』という感じがする。先日、元事務所のスタッフがべろんべろんに酔って電話してきて、一番好きな歌だと言ってました(笑)」
曲の数だけ、人の数だけ、思い出がある。30年という幸福な時間を背負った『きみだけを V』、そして小気味いいブルースハープがスパイスとなった『39(サンキュー) V』と、"ウルっとくる ウルフルズ感動の名曲選"の名に偽りなしの『ウル盤』の収録曲が、これぞウルフルズなノリのいい"動"の楽曲のみならず、人生に寄り添う"静"においても、数え切れない名曲があることを物語っていく。
「これも何かいろんなことを思い出す。そんな歌ばっかりよ、やっぱり。今日はかみ締める『ヤッサ!』。若いな~っていう感じもしつつ、嫌いじゃないなと思う。精一杯歌います、心を込めて」(トータス松本)
この頃には肌寒く感じるほどに吹いてきた風も、『暴れだす V』の力強いリズムに合わせて手を叩き体を揺らせば、いつの間にか心も体も温かくなる。それに呼応するかのように、「やっぱりお客さんがおると力が入るな! 今年は30周年やからツアーもやるし、いっぱい歌って、みんなが喜んでくれたらいいなと」と意気込むトータス松本が、『ヤッサ!』を支えるサポートメンバーにも触れていく。デビュー前からの付き合いの桜井秀俊、'14年の復活に向けたレコーディングに関わってから、同じ時間を共有してきた菅原龍平。『ヤッサ!』最多参加でデビューは先輩の伊東ミキオと、楽器隊それぞれのキャリアを振り返り、トータス松本が『ヤッサ!』について秘めたる思いを述べる。
「『ヤッサ!』が最初の頃はホントに若かったし、自分らも、世の中のウルフルズを見る勢いもあったと思うのね。だからソールドアウトもすぐやったし、天気のことをちょっと心配するぐらい。あとは毎年、何か趣向を変えなあかんとかばっかり考えてたけど、やっぱり年を重ねてみんな50過ぎになると、天気も体調もみんなが来てくれるかどうかも心配やし(笑)、『ヤッサ!』を1回やるにしてもいろんなことを思う。今日のこの感じ..."今、ステージ上で俺は『ヤッサ!』をやってるんや"って...今はリアルにそれを感じて、めちゃめちゃうれしいなぁって」
歓喜と感謝に溢れた『笑えれば V』では優しいコーラスワークで包み込み、『愛撫ガッチュー V』ではマラカスを手にエモーショナルに歌い上げ、『事件だッ! V』では再びダンサーが合流し、総勢50名近くが入り乱れる圧巻のパフォーマンス! 「いや~すごい! ダンサーのみずみずしさ(笑)。負けへんで~! お客さんもめちゃめちゃみずみずしいよ、ピチピチ(笑)。これも何度となく演奏してきた、若さみなぎるラブソング!」(トータス松本)と告げた『いい女 V』では、アウトロでいち早くはけたトータス松本を横目に、「みんなー! トータスに会いたいかー!?」とあおるジョンB。手拍子に呼び戻されたトータス松本が帰還し、最高潮の熱気のまま前半戦が終了した。
すでにワンマンライブ1本分のボリュームに達している『ヤッサ!』だが、ここで一旦、休憩タイムに。その間、スクリーンにはウルフルズに憧れ過ぎて似まくってるけど決してそれを認めないバンド(笑)、"ウルトラズ"に扮するジャルジャルのコント映像が流れる。新人発掘のプロデューサーを前に、『ヤッター』『お隣さん』『アホグラミー賞』『そりゃそうや』と、ウルフルズそっくりの曲ばかり熱唱するトースター松林と、メンバーのジッパー・ジャンパー、ホンコン・チュニジアの3人(笑)。最後には自らのライブ『ダッサ!』の告知をするなど(笑)、終始、遊び心と笑いの絶えないインターバルとなった。
「ジャルジャルありがとう~! じゃあ後半戦いってみよか。何せ30曲やからね。前半ちょっと喋り過ぎたっぽいね(笑)。全てはここから始まった、デビュー曲やります!」(トータス松本)と、『やぶれかぶれ V』から衣装も新たに後半戦がスタート。「心の中で、マスクの中で言ってくださいね、金の切れ目は~!?」(トータス松本)、「(縁の切れ目~!)」(みんなの声にならない声)という心のコール&レスポンスも楽しい『借金大王 V』に続いては、ヤッサホーンズがリードするゴージャスな『年齢不詳の妙な女 V』、「なぜか女性に人気の曲を」と、トータス松本の泣きのギターにもシビれるブルージーな『チークタイム V』、ほとばしる情熱に焦がれる『胸の... V』と、レパートリーの中でもとりわけ円熟味に満ちた楽曲で魅了していく。
「次は『ヤッサ!』で初披露した思い出のある曲で、長いこと人前で歌ってなかったけど『ズ盤』でセルフカバーしてみて、個人的に今一番気に入ってる曲みたいなところまでたどり着けて大変満足してます。これ以上何も言うことはない、一番シンプルにそぎ落とした歌」(トータス松本)というその名も『歌 V』は、30年という時間をかけ、50代も半ばに差し掛かった男の歌だからこそ、よりいっそうピュアに聴こえる。「ラブソングが続くな。かみ締めるぞ...」と、トータス松本が幾度となく自らに確かめるように語り掛け歌った『相愛 V』も、時間を音楽に変えたかのような深みのある歌唱と演奏にグッとくる。
ギターを奏でるや喝采が起きた孤高の『サムライソウル V』、「これまた『ヤッサ!』の定番。これぐらいの時間になることを想定して、この辺の曲順に置いてみた。いい感じに日が暮れてるかな」(トータス松本)と、徐々に日が落ち始めた時間帯に捧げた人生賛歌『僕の人生の今は何章目ぐらいだろう V』が、スライドギターやハモンドオルガンが何層にも織り重なった、幻想的な音色と共にじんわり沁み渡る...。「何かじわじわと終わりが近づいてるような気がする...」とトータス松本が自覚した『愛してる V』の時点で、もう24曲。それでも"まだあの曲もこの曲もやってない"と思えるウルフルズの30年には、心底感心させられる。
となると、クライマックスはその総力戦! セットの上下から炎や花火が噴き出した『ヤング ソウル ダイナマイト V』では、ド派手な演出とスリリングなホーンに見る者のテンションも急上昇。「今日、歌う中では一番新しい歌やね」と言いつつ、すでにウルフルズの歴史に名を連ねて遜色のない説得力の『タタカエブリバディ』が、再びクラップの渦をもみじ川芝生広場に発生させる。
まだまだピークはこんなもんじゃないと言わんばかりに、全員参加でおなじみの振り付けが炸裂した『バカサバイバー V』では、見渡す限りが手を振る絶景が...! 続く『ええねん V』も言わずもがな、こんなにも一緒に歌えて、こんなにも気持ちがアガる曲たちが、まるで途切れることなく次々と押し寄せるのは、『ヤッサ!』ならでは、30周年ならではか。
「30年経って、こんな素敵な仲間たちと一緒に演奏できて、ホントうれしいです。スタッフにこういう場を作ってもらって、ホントにありがたいし。そして何より、僕らがこうやって演奏できるのは、こんなにたくさんのみんながいるからで。ホンマ、ありがとうな~(笑)」(ジョンB)
「リハをやってて"この曲ってこんな感じやったんや"とか、また発見があってね。自分でもウルフルズの曲がさらに好きになったりして。今日ライブを見てくれた人が、今まで以上にウルフルズの曲を好きになってくれたらいいなと思いながらやってました」(サンコンJr.)
「4年ぶりの『ヤッサ!』、かみ締める『ヤッサ!』と宣言してやってきました。歌いながらいろんなことを思い出したり考えたり、こんな『ヤッサ!』は初めてでした。ホントにありがとう! これはある意味、我々の人生を変えた曲やね。歌います!」(トータス松本)
飾らない言葉で、日常と愛を真っすぐに歌う『バンザイ~好きでよかった~ V』に、今日もまた心を動かされる。ウルフルズにとっても、ファンにとっても、いろんなことがあった30年を経た今でも、ちゃんと心が動く。それがウルフルズの音楽で、それを確認できる場所が『ヤッサ!』で。4年ぶりなんて言わずに、また年に一度、こんな素敵な一日があったなら...そう思わせる美しい光景がそこにはあった。
「ありがとう大阪! 『ヤッサ!』最高!! ウルフルズでした~!」(トータス松本)
またも『世界の国からこんにちは』のSEを背に登場し、「イエーイ! 『ヤッサ!』ー! 大阪ー! みんなこんなに集まってくれて、ありがとうな~」とジョンB。あれ...? この風景、どこかで見たことがあるぞ。3時間半前に確かに見たぞ(笑)。耳慣れたあのギターリフにいざなわれステージに現れたのは、殿様姿のトータス松本!(笑) 本日二度目のおかわり『ガッツだぜ!! V』で大興奮のさなか、途中で死んでしまう殿様を拍手で生き返らせる全力茶番劇から、「セルフカバーアルバムには入ってないけど、この曲をやらへんわけにはいかへんね。大阪の、大阪による、大阪のための!」とのトータス松本のお決まりのフレーズで始まった『大阪ストラット』では、ここにきて歌の入りを間違え笑ってしまった上に歌詞が出てこないというグダグダっぷり(笑)。が、それすらもエンターテインメントにしてしまうライブ力でとことん楽しませ、ついに『ヤッサ!』はフィナーレへ。
「『ヤッサ!』で30曲やりますと銘打って、場所はやっぱりここしかないからね。いろんな人が集まってくれて、僕らは本当に幸せ者です。いろんなバンド、いろんなミュージシャンが、みんながみんなプロになれるわけじゃないし、プロになってもみんながみんな食えるわけじゃない。そんな中でね、ここ数年はつくづく思うんよ。ウルフルズは運がよかったなって。それって、みんなが僕らに巻き込まれてくれたんやなって。頑張っていきます、これからも。いくつになってもこのカッコができるように(笑)。まだ1曲だけやってない曲があるんです。この曲を作ったときのことはよく覚えてて、『ガッツだぜ!!』で一発屋みたいな言われ方をして終わるのか? "いや、もっとすごい曲を書いてやる!"と思って一生懸命悩んで書いた曲。だから『それが答えだ!』って、自分らに向けて何か思うことがあったんやろうな。長いこと歌ってると、不思議なもんでその歌に自分の意識がついてくるというか、歌いながら「そやな」って思う。一緒に歌ってください。マスクの中で、心の声で、小さな声で、ささやくように、歌ってくれるか大阪! 歌ってくれるか『ヤッサ!』!!」(トータス松本)
この日一番の大音量の合いの手と作り上げた『それが答えだ! V』が、「名残惜しいからもう1回!」(トータス松本)とワンコーラス延長で、もみじ川芝生広場に響きわたる...! 胸いっぱいの感動を抱えたまま、最後は盛大な打ち上げ花火が夜空を彩るのをみんなで見上げる...。「いや~最高! ありがとうございました! また元気で会おう!!」(トータス松本)と再会の約束を交わし、4年ぶりの『ヤッサ!』を見事に締めくくったウルフルズだった。
なお、今後のウルフルズは、7月2日(土)に『京都大作戦2022〜今年こそ全フェス開祭!〜』、7月24(日)に『OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL 2022』に出演。7月31日(日)10:00~には、WOWOWでこの日の『ヤッサ!』の模様が放送・配信されるのでそちらもお楽しみに! そして、11月9日(水)埼玉・三郷市文化会館 大ホールを皮切りに、全国12カ所を巡るホールツアー『ウルフルズ 30th Anniversary TOUR 2022-2023 (仮)』開催、さらには2023年2月からはファンクラブ会員限定全国ツアー開催と、アニバーサリーイヤーに活動が活発化していくウルフルズに乞うご期待!!
Text by 奥"ボウイ"昌史
Photo by 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)/松本いづみ
出典:ぴあ関西版WEB